【コラム2】街のインド料理屋から見えてきた、日本社会の静かな変化

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コラム
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街のインド・ネパール料理屋から見えてきた、静かな変化

ここ数年、西武線沿線も含め、個性的なインド・ネパール料理屋やスパイス料理店に出会う機会が増えました。
南インド料理、ビリヤニ、ネパール系のダルバートなど、以前なら都心まで行かないと出会いにくかった料理が、身近な駅前でも少しずつ楽しめるようになってきた印象があります。

一方で、過去に本ブログのコラムにて、カレー店の閉店が全国的に増加していることについて取り上げました。
帝国データバンクによると、2025年上半期だけで全国約210店舗のカレー店が閉店したとされています。[1]
原材料費や光熱費、人件費の上昇、後継者不足、コロナ禍以降の消費変化など、複数の要因が重なった結果の閉店と考えられます。[1]
近年では、令和7年10月施行の在留資格制度の改正により、外国人経営者を取り巻く在留制度や、外食業界全体の人材不足も、カレー店を含む街の外国料理店に少しずつ影響を与え始めているようです。

外国人経営者向けの制度改正

出入国在留管理庁によると、令和7年10月施行の改正では、3000万円以上の資本金等、常勤職員の雇用、日本語能力、経歴要件などが追加されました。
一方で、既に在留している人については、施行日から3年間の経過措置が設けられており、更新時には経営状況や新基準への適合見込みなどを踏まえて判断される扱いも示されています。[2]

不適切な在留資格取得や実体の乏しい会社を防ぐ必要があるからと考えられますが、個人経営に近い小規模な外国料理店にとって、資金面や常勤職員の雇用要件などは高いハードルです。
実際、新大久保や大久保エリアでは、外国人経営の飲食店や食材店が街の多国籍性を支えてきました。[3]
ネパール系やイスラム系、中国系など、多様なコミュニティが集まり、街並みそのものが変化してきた歴史があります。
今後、外国人経営者の新規参入が難しくなれば、こうした街の“新陳代謝”にも少しずつ影響が出てくるのかもしれません。
明日すぐに一斉閉店が起きるという話ではありませんが、新しく店を開きたい外国人経営者にとって、以前より高いハードルが設定されたことは事実として見てよさそうです。

外食業界の従業員不足がさらに悪化へ

厚生労働省によると、令和7年10月末時点の外国人労働者数は257万人を超え、過去最多となっています。[4]
帝国データバンクの調査でも、飲食店の非正社員不足は58.6%に達していました。[5]
現在、日本の外食産業は、すでに外国人材なしでは回りにくい構造になっていて、大手外食チェーンでも外国人を正社員や店長候補として積極的に採用する動きが広がっていました。

そのような状況下にて、出入国在留管理庁は、外食業分野の特定技能1号について、受入れ見込数5万人に近づいたとして、2026年4月以降の新規申請の扱いを厳格化する方針を示しました。[6]
実際、特定技能1号の受入れ上限5万人が近づいた際には、外食業の各社が外国人採用計画の見直しを迫られていることも報じられています。
例えば、居酒屋「磯丸水産」を展開するSFPホールディングスでは、特定技能人材が約400人と従業員の約4割を占めており、営業時間短縮や出店計画の見直しも視野に入れていると報じられました。[7]
インド料理店では、インドやネパール、バングラデシュなど南アジア出身のスタッフが働いていることも多く、こうした外国人材の受け入れ環境の変化は、現場にも一定の影響を与える可能性があります。

今後の影響、更なるインフレへの懸念

帝国データバンクの「カレーライス物価指数」では、2026年3月のカレーライス物価は1食362円、10年間で約4割上昇したとされています。[8]
加えて、中東情勢の緊迫化によるエネルギー価格上昇も無視できません。
資源エネルギー庁は、日本の原油輸入の9割以上を中東地域に依存していることを示しています。[9]
原材料費に加えて原油価格が上がれば、輸送費や包装資材、光熱費など幅広いコストへ波及し、飲食店の経営に更なる負荷をかけることが予想されます。

さらに大きな視点で見ると、日本が今後も外国人にとって『働く場所』『店を開く場所』として選ばれ続けるのか、という問題もあります。
経団連は、日本に在留する外国人は約396万人(2025年6月末)、外国人労働者数は約230万人(2024年10月末)と、ともに過去最高を更新し、すでに外国人は日本の経済社会を支える一員となっていると見解を示しています。[10]
一方で、世界各国が成長分野を中心に産業競争力を強化し、各国で高度人材・外国人材の獲得競争が激しくなっていると指摘しています。[10]
また、自治体国際化協会の資料では、円安や賃金上昇の弱さによって、日本で働く経済合理性が以前より低下している可能性も考えられます。[11]

まとめ

在留制度の厳格化、人手不足、物価高、国際的な人材獲得競争。
原因は一つではありませんが、それらが重なった結果として、外国料理店を取り巻く環境は、以前より厳しくなっているように見えます。
それでも、インド料理屋やネパール料理屋は、私たちが知らないスパイス、知らない料理、知らない言葉に、普段の生活の中で自然に触れられる場所でもあります。
駅前の小さな店で、知らない香りや味に出会う体験には、ネットでは代替できない面白さがあります。
だからこそ、細々でも良いので、身近な環境の中に『外からの刺激』が残ってくれると嬉しいな、と感じる今日この頃です。

参考文献
[1] 帝国データバンク『「カレー店」の倒産・休廃業解散動向調査』
[2] 出入国在留管理庁『在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正について』
[3] 多様性は新宿にあり。大久保がアジアンタウンになった理由
[4]
厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和710月末時点)』
[5] 帝国データバンク『人手不足に対する企業の動向調査(20261月)』
[6] 出入国在留管理庁『特定技能「外食業分野」における受入れ上限の運用について』
[7] 朝日新聞系・ツギノジダイ『特定技能の外食業分野、2026413日から受け入れ一時停止へ』
[8] 帝国データバンク『カレーライス物価指数(20263月)』
[9] 資源エネルギー庁『中東情勢を踏まえた燃料油価格について』
[10] 経団連『転換期における外国人政策のあり方』
[11] 自治体国際化協会『国際労働移動と日本』

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